チベット問題入門―歴史・原因・具体的内容・解決策など

スポンサーリンク
スポンサーリンク

記事がお役に立ったらシェアしていただけると嬉しいです!

チベットと言う言葉に並々ならぬ興味を抱いたのはいつだったか。

高校時代世界史の授業が非常に好きでした。その中でもっとも”響き”が好きな単語がソンツェン・ガンポ。チベットを史上初めて統一した吐蕃国の国王の名前です。

仕事で名古屋に配属されたとき名古屋で知り合った旅好きの友人主催の勉強会に参加したことがありました。その会のテーマがチベット問題。なんとなくそのような問題が存在することは知っていたがその時まで詳しくは知りませんでした。その勉強会の講師の話が進むにつれ、私の興味はどんどん増していきました。

その勉強会から数年の月日が経ち、私は今ダラムサラと言う街にいます。チベット亡命政府が置かれ、チベット仏教の法主ダライ・ラマ法王が住まわれている街ダラムサラ。

さらに偶然にも私はチベット民族平和蜂起56周年記念日の式典にも参加することが出来ました。

参考:チベット民族平和蜂起56周年記念日におけるロブサン・センゲ主席大臣の声明

今回はいつもの旅情報ではなく、くだらない旅行記でもなく、真面目にチベット問題について書いていきたいと思います。後述しますがこの問題は解決するのは非常に難しい問題です。その解決に不可欠なのが「知ること」。私の知識はまだまだ浅いし、面白い、読ませる文章を書くことが出来ないかも知れません。それでもこの話を、問題を知ってもらいたいと思っています。チベット問題を知る人が、興味を持つ人が増えることが問題解決の糸口になると信じて。

これは遠い地球の裏側の話ではありません。私たち日本人と同じ東アジアの、そして我々と同じように仏教を信奉している人々の話です。

まずは簡単なチベットの歴史から始めましょう。この問題について理解するにはまずチベットの歴史について知らなくてはなりません。歴史を紐解くことでなぜ今このような問題が起こっているのかを知ることが出来るのです。

チベットの歴史

ガンゼゴンパで行われていたお祭り
ガンゼゴンパで行われていたお祭り

歴史の教科書にチベットが初めて登場するのは7世紀。吐蕃のソンツェン・ガンポ王が歴史上初めてチベットを統一します。ソンツェン・ガンポ王は中国の唐王朝から文成公主を、ネパールからティツンをそれぞれ妃にもらいました。この二人が建立した寺が今なお多くのチベット人の信仰を集めているジョカン(大昭寺)とラモツェ(小昭寺)です。

17世紀、時のダライ・ラマ5世がモンゴルの支援を受け、各地に諸侯が乱立していたチベットを再び統一することに成功します。この時、それまで宗教上のトップの座に留まっていたダライ・ラマが政治上のトップの座にも君臨することになりました。

月日は流れ1949年ここからチベットの激動の歴史は始まります。中華人民共和国が成立すると、中華人民共和国はチベットに軍事侵攻を開始し1951年にはチベット全土を掌握しました。

1959年、この年はチベットにとって非常に大きな出来事の起こった年となりました。3月、ダライ・ラマ14世は中国政府から観劇の招待を受けます。それを受け3月10日、ダライ・ラマ法王の身を案じたチベット人たちがダライ・ラマ法王のいた夏の離宮ノルブリンカを取り囲み一斉蜂起しました(ラサ蜂起)。その後の中国群によるの徹底的な弾圧を受け、ダライ・ラマ14世はインドへ亡命するためチベットの地を後にします。インドに亡命したダライ・ラマ14世が亡命政府を樹立したのがそう、ダラムサラです。

ダライ・ラマ法王亡命後、中国はチベット人を大量に虐殺し、また文化大革命に際してチベットのゴンパ(チベット仏教寺院)や貴重な仏像などを徹底的に破壊しました。チベット亡命政府によると120万人のチベット人が殺害され、ゴンパの90%が破壊されたといいます。

話を現代に戻しましょう。今なお毎年数千人ものチベット人がヒマラヤ山脈を徒歩で越えてインドやネパールなどに亡命しています。その大半は小さい子供です。彼らは親ともう二度と会えないかもしれないという覚悟で、そして命を失う覚悟でヒマラヤ山脈を越えてきます。チベット人にはパスポートは発給されません。そのためチベット人が自由を勝ち取るためには徒歩で、ヒマラヤ山脈を越えて亡命するしかないのです。

チベット問題とは

ポタラ宮
ダライ・ラマ法皇の居城ポタラ宮

チベットの歴史を概略したところで本題であるチベット問題に話を移しましょう。中国政府の軍事侵略によってチベットは独立を失い、宗教上の、そして政治上の指導者であるダライ・ラマ法王を失いました(ダライ・ラマ14世は2011年3月14日に政治の場から引退された)。そして指導者なきチベット本土は中国政府より様々な弾圧を受け人権が侵害されています。このことに関して難民支援NGO Dream for Childrenのウェブサイトにはチベット難民が語った言葉として次のような言葉が掲載されています。

「亡命したチベット人の90%は、故郷で弾圧を受けるくらいなら、亡命の途中で命を落とす方がましだと考えていると思います。」

ここでは数限りないチベット問題のうち主だったものをいくつか紹介します。

チベット人の大量虐殺

チベット人
リタンで会ったチベット人。チベタンはみんなマニ車を回している。ここリタンはカム反乱の激戦地の一つで人民解放軍の空爆により多くのチベット人が命を落とした。

 中国政府によるチベット進行以後、カム反乱の鎮圧、大躍進政策、文化大革命などによって多数のチベット人が虐殺されました。前述したとおり、チベット亡命政府の発表によると120万人のチベット人が殺害されたといいます。チベット人の人口は約600万人と言われている事を鑑みるとこの120万と言う数字がいかに巨大な数字かということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

宗教の自由がない

ラルンガル・ゴンパ
ラルンガル・ゴンパ

中国は対外的には宗教の自由を認めているとしていますが、チベットではダライ・ラマ法王の写真を持っているというただそれだけの理由で逮捕されてしまいます。私が旅行したチベットのカム地方(中国の行政区分で言うと雲南省北部と四川省西部)ではゴンパなどでダライ・ラマ法王の写真をお見かけすることがありました。しかし、チベット自治区に入ってからは全く見かけませんでした。恐らく完全に弾圧することに対する反発を恐れ中国政府は地域によって弾圧の程度を調整しているのでしょう。

パンチェン・ラマ11世の誘拐 

パンチェン・ラマが座主を務めるタシルンポ寺
パンチェン・ラマが座主を務めるタシルンポ寺

ダライ・ラマ法王に次ぐチベット仏教の実質的第2の高僧パンチェン・ラマ11世は1995年、ダライ・ラマ法王が第11世パンチェン・ラマに認定したそのわずか3日後、6歳の若さで中国政府に拉致されました。それから20年が経過したが未だ行方不明のままです。中国政府はパンチェン・ラマ11世として傀儡のギェンツェン・ノルブを擁立しています。

この問題はチベット仏教の根幹にかかわる問題です。なぜなら、高僧が生まれ変わるとされるチベット仏教においてダライ・ラマの生まれ変わりを認定するのはパンチェン・ラマだからです。現在のダライ・ラマ14世は今年で80歳と高齢です。ダライ・ラマ14世にもしものことがあった場合に、中国政府の息のかかったパンチェン・ラマがダライ・ラマ15世を認定するということは、すなわち中国政府の息のかかったダライ・ラマが誕生することを意味します。

中国が既に傀儡のパンチェン・ラマを即位させておけば、この事実を利用して、傀儡にできそうな自分たちのダライ・ラマを選定することができる。この恐ろしいシナリオ通りに事態が進めば、自由チベットを求める闘いは当然敗北することになる。中国政府が現在進めようとしているのは、この長期にわたる政治ゲームであることは疑いようも無い。
パンチェン・ラマとは―ダライ・ラマ法王日本代表部事務所

環境破壊

ヤムドク湖
ターコイズブルーが印象的なチベット三大聖湖の一つヤムドク湖 

チベット博物館で見たドキュメンタリー映画の中に「Meltdown in Tibet」というドキュメンタリーがありました。内容は中国政府の開発によりチベットの環境が破壊されており、かつてないペースで氷河が溶解しているというものでした。

また、中国政府はチベット内に多数のメガダムを建設していますが、この大規模なダム建設によって生態系が破壊されています。またチベット高原はメコン川、長江などが生まれる地でありチベット、中国のみならず東南アジアのかなりの数の国に影響を与えます

その他にも、

  • チベット語での教育を受けることが出来ない
  • インターネットや電話の監視
  • 若い女性への強制不妊手術の横行
  • 刑務所での拷問の常態化
  • 伝統的な遊牧生活からの強制移住

など問題は枚挙に暇がありません。

チベット人と焼身抗議

ラルンガル・ゴンパ
僧房が大地を埋め尽くすラルンガル・ゴンパ

これらの様々な問題に対する抗議としてチベット人による焼身自殺が後を絶ちません。

2011年3月四川ンガバチベット人自治州キルティで若い僧侶が焼身自殺を図ったことを皮切りに中国の統治に対する抗議の焼身自殺が相次いでいます。直近では2015年3月6日にチベット人女性が焼身自殺を遂げ、2011年からの焼身抗議者は2015年3月現在136人にも達しています

参考:チベット人女性が焼身抗議で死亡、焼身抗議者数136人に達する―ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)

ダラムサラには焼身自殺で無くなった方の写真やプロフィールが掲示してある場所が何か所かあります。その写真を一人一人見ていくと10代とか20代前半とかで焼身自殺を遂げられた方が多いことに驚かされます。中には15歳なんていう人も。

考えて見てください。自分が15歳の頃どんなことを考えていたか、何をしていたかを。そのような年齢の時に自国の未来を考え、そして憂い、抗議の方法として自らの体に火を放つなんて考えもしなかったのではないでしょうか?チベットではそのような悲しい事件が後を絶ちません。

そして、焼身抗議を行った彼らの写真を見るとみんなそこら辺にいそうな普通の若者ばかりであることにまた驚かされます。髪型も服装もどこぞのアイドルかと思うくらい結構オシャレだったりするのです。僧侶も多いけど学生も多い。そんな本来前途洋々たるはずの若者が自分の身を犠牲にして世界に対して声を上げているのです。心が痛む。

次の文章はチベット博物館で放送されていた焼身抗議に関する動画にあった焼身自殺者による最後の言葉です。思わず胸が詰まりました。

Father, being a Tibetan is so difficult. we can’t even say our prayer before the Dalai Lama’s portrait. We have no freedom at all…
(父さん、チベット人として生きることはとても難しい。私たちはダライ・ラマ法王の御写真の前で祈ることすらできない。我々には自由が全くない……。)(拙訳)

彼らの無垢な思いを、死を、命を決して無駄にしてはならない。ダラムサラに来たことで強くそう思うようになりました。

私たちにできること

チベット仏教僧
柔和な笑みを浮かべるチベット仏教僧

それでは、私たちはこの問題を解決するために何ができるでしょうか。正直、私たちにできることはあまり多くはありません。でもだからと言って何もしないでいては問題は解決に向かいません。ここでは私がここダラムサラで学んだ、我々が今すぐにでも取り組めることをいくつか書いていきます。

知ること、興味・関心を持つこと

ダラムサラにあるチベット博物館
ダラムサラにあるチベット博物館

ダラムサラにはそんなチベットの数奇な運命を学べる博物館があります。博物館と言っても展示の大半は写真とその解説。先ほど引用した焼身自殺者の言葉もここで知ることが出来ました。入場無料なのでダラムサラに訪れた際はぜひ訪れてみてください。ここでは11時からと15時からの1日2回チベットやチベット問題に関するドキュメンタリー映画を放映しています。こちらはRs.10と有料ですがこちらもぜひ見てみてください。映画の種類は非常に沢山あるので何回行っても飽きることはないでしょう。

ダラムサラを訪れることが出来なくても落ち込むことはありません。インターネットが普及した現代社会においてチベット問題についての情報を仕入れることはなにも難しいことではないからです。日本に居てもチベット問題について触れることはできます。またチベット問題に関する最新のニュースを手に入れることもできます。以下に信頼のおけるソースをいくつか掲載します。

  • ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)
    ダライ・ラマ法王及びチベット亡命政権の正式な代表機関として、1976年に東京に開設された機関。
    ・チベット問題に関して正しい国際理解の形成を図る
    ・チベットと日本や東アジア地域との友好促進
    ・チベットと日本や東アジア地域との文化交流を推進する
    ためのチベット亡命政権の正式な窓口。
    私はこのサイトを最近知ったためチベット本土を訪れる前に読むことはできなかったが「チベット本土へ旅行する方へ」のページはチベットを訪問したいと感じる旅行者にとって非常に有意義な視点を提供してくれるでしょう。
  • ダライラマ法皇猊下公式ホームページ
    日本語サイトは最近オープンしたようです。
  • Dream for Children
    冒頭で紹介した私が名古屋で参加した講演会の講師が代表を務めるNGOです。ほぼ毎日チベット問題に関するブログが更新されています。代表の亀田さんは毎年半年ほどダラムサラに滞在され、チベット難民に第三国に出国するために必要な英語の指導や、英語で発行されたチベット問題に関する本の日本語への翻訳などをされています。上記ウェブサイトからは亀田さんが翻訳された本の購入もできます。
  • Central Tibetan Administration
    チベット亡命政権のウェブサイトです。英語です。

チベット本土を訪れる

ジョカン
ジョカン

チベット本土を訪れてみるのも一つの方法です。チベット問題に興味関心がある人の中にはチベット本土を訪れることは中国政府を潤すだけだと考えている人もいるでしょう。もちろんそのことは否定できません。

私がウ・ツァン(チベット自治区)を訪問した2014年11月当時チベット自治区に入境するためには高額なツアーに参加しなければならず、その代金の大半(全てか?)はチベット人にではなく中国政府、もしくは漢民族の運営する旅行代理店に入っていきます。

そのことを懸念してチベットの文化に興味はあるがチベット本土を訪れることなくチベット以外のチベット文化圏、例えばラダックやダラムサラを訪れたという人も少なくありません。

その一方でダライ・ラマ法王日本代表部事務所ウェブサイトの「チベット本土へ旅行する方へ」のページには次のような記述があります。

私達は、中国政府に対して圧力をかけ続けることが大切だと思います。最も有効な方法は、チベットでの「本当の状況」の目撃報告です。チベットにおける観光事業が、中国政府に利益をもたらしているのは事実です。しかし、もし、その地域に旅行者が居なければ、1998年5月にダプチ刑務所でおきたデモのような事件について、中国側の報告のみが発表され、国際社会が真実を知ることはますます困難になるでしょう。チベットの状況について、自主性のある情報を得ることは大変難しいですから、旅行前にチベットについての知識を有する人は、チベットの人々とその他にとっても大きなプラスとなります。それゆえ、あなた方のチベット訪問は大変大きな効果をもたらすことが出来るのです。(中略)客観的情報を独占する中国にとって、自由観光事業が最も有効なチャレンジなのです。チベットへの個人の観光客(旅行家)の数が増せば増すほど、中国当局による観光客への行動制限や、現地チベット人との接触防止をより難しくさせるのです。

実際私はチベット自治区をとりわけラサを訪れたことによって現地のチベット人がどのような状況に置かれているかを知ることが出来ました。そしてそのことを旅先で出会う様々な人に伝えることが出来ています。

彼らはジョカンをコルラ(聖地の周りを巡礼して歩く行為)したりジョカンの前で五体投地するにも漢民族による身体検査を受けなければなりません。焼身抗議を防ぐためにライターやマッチはその場で没収されます。チベット仏教徒は熱心な信者が多いため多くのチベット人は毎日ジョカンやポタラ宮の周りをコルラしています。そのことはつまり彼らは毎日身体検査を受けているということであり彼らのストレスは相当なものであると考えることは想像に難くありません。また理由は定かではないがカンゼを訪れた際は夜多数の公安が大通りを監視している様を目撃しました。

私はダラムサラに来てから「チベット本土へ旅行する方へ」のページを読んだため、このページに書いてある「見学すべきものとすべき質問」についてすることが出来なかったものが多数あります。これからチベット本土を訪れる方はぜひ事前に目を通して、その状況を色々な人に伝えてほしいと思います。

チベット問題について話そう

ダラムサラにあるLITのオフィス
ダラムサラにあるLITのオフィス

もっともっとこの問題が広く一般的に知られ、語られていけば国際社会を動かすことができるかもしれません。中国政府に圧力をかけ続けていくことが必要です。

そのためにもまずは自分の身近な人にチベットで起こっていることを知っているか尋ねてみては如何でしょうか?もし知らなかったらその人に教えてあげてください。もっと多くの人にこの問題を知ってもらいたいと思われる方は私のようにブログやFacebookなどのSNSに投稿してみては如何でしょうか?

チベット高原の雪解け水が長江やメコン川などの大河になるように、例え一人一人の力が微力でも積み重なれば大きなうねりを生み出せるかもしれません。

もっとチベットを知ろう

チベットを旅するためのオススメガイドブック。少し古いですが情報の質と量が違います。

ダライ・ラマ14世の自伝

ダラムサラに英語教師のボランティアに来ている方に教えてもらった映画

最後に

チョモランマベースキャンプ
世界最高峰チョモランマのベースキャンプ。標高5200m。 チョモランマとはエベレストのチベット名

問題の根が深すぎて、そして私の不勉強で、まとまりきっていない文章になってしまったかもしれません。それでも書かずにはいられませんでした。

みんなで力を合わせて国際社会に訴えていれば、いつの日か変わると信じています。

ダライ・ラマ法王をチベットに、チベット難民たちをチベットに。

参考
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所(チベットハウス・ジャパン)
難民支援NGO Dream for Children
Meltdown in Tibet
Learning and Ideas for Tibet(LIT)
Wikipedia チベットの歴史パンチェン・ラマチベット問題など