どうも蔵人見習い三矢(@hideto328)です。
先の6月25日に行われたフランス初の酒蔵「昇涙酒造(Les larmes du levant)」にて蔵開きが開かれ参加してきました。今回はその模様をレポートします。
昇涙酒造蔵紹介
さて、今回蔵開きに参加できることになった昇涙酒造とはどのような蔵なのであろうか。昇涙酒造がフランス最初の酒蔵であることは先に述べたが、蔵開きの様子を紹介する前にこの蔵についてより詳しくみていきたい。
昇涙酒造はフランス第2の都市リヨンの南約60km、ローヌ・アルプ州ピラ地方自然公園ペルーサン(Pélussin)に居を構える。ペルーサンへの公共機関はリヨンから電車(TER)で約20分のヴィエンヌ(Vienne)へ行きそこからバスに乗り換えて約50分。バスは1日3〜4本と非常に少ないため自家用車がないとなかなかアクセスが難しい。
ペルーサンの街は地球の歩き方はおろかロンリープラネットにもほとんど記載のないフランスの田舎町であるが、石造りの壁に赤い瓦屋根で統一感のある街並みは美しい。
そして自然公園の中にあるだけあって豊かな自然に囲まれている。街を一歩出ればそこには豊かなフランスの大地が広がっている。
昇涙酒造はそんなペルーサンの街の一角にある。その建物は築150年ともいう石造りの伝統的な建物で、元々はこの地方の主要な産業であった紡績工場だったということである。
美しい石壁、伝統的なノコギリ状の天井(染物の色を確認するため片側は窓になっている)、鉄の梁など19世紀のこの地方の建築物の特徴が酒蔵になった今も残されている。
蔵元はフランス人のグレゴイワ・ブフ(Grégoire BOEUF)氏(通称グレッグさん)。グレッグさんは日本の梅津酒造で一年間酒造りの勉強を行なったという。杜氏には「竹鶴」「桜うづまき」などで酒造りに携わっていた若山健一郎さんを迎え、「花垣」で有名な南部酒造で蔵人をしていた田中光平さんを加えた日仏3人のチームで酒を醸す。
(写真左から蔵人田中さん、杜氏若山さん、蔵元グレッグさん)
現在フランスでは精米設備がないため酒米は日本から輸入し、仕込み水はピラ山の湧き水(ここの水はヨーロッパでは珍しい超軟水)、醸造に使う設備や用具は日本から持ってきたものとフランスにあるものと折衷で使っている。
「乾杯!」の挨拶なく蔵開きスタート
蔵開きは6月25日の正午スタートということだったが、主要な関係者は24日の時点で前入りしている。そのため11時ころから徐々に人が集まってきた。
正午近くになり適度に人が集まってきたところで蔵元自ら酒をグラスに注いでいく。
出来立てほやほや昇涙酒造最初の日本酒。こちらは加水していない原酒。アルコール度数は17.3%ほど(うろ覚え)。これとは別に15.5%まで加水したものも用意された。
一通り酒が行き渡ったところで蔵元から乾杯の挨拶が…と思いきや、そんなものは存在せず、各々勝手に酒に口をつけていく。なんといういい加減さだろうか。これがフランス流なのか。
徐々に増えていく参加者。会場位はペルーサンや近郊に住んでいるフランス人やサンテ・ティエンヌ、リヨンで活躍されている在留邦人など合計で100名ほどの参加者があったとのこと(詳細は不明)。
蔵開き当日の蔵には日本酒について学ぶ様々な仕掛けが
昇涙酒造の看板は鳥取の山枡酒店の山枡さんが筆を取り梅津酒造の梅津社長知り合いの家具職人の手によって作られた力作。本来は入り口の右側に据えられるものだが諸事情により当日のみ左に配置。
蔵の内外は日本酒を初めて飲むフランス人のために様々な説明書きが用意された。これらの説明は日本酒の輸入販売を手がけるDev-A社のもの。Dev-A社はOsake.frというウェブサイトを運営している。
麹室内には麹蓋などが展示されている。こちらの麹蓋は若山杜氏が以前働いていた桜うづまきさんから譲っていただいたものとのこと。
醪を発酵させるタンクは現地のワイン用のタンクを流用。
一部タンクの中は見学できるようになっており醪が発酵していく様子がみて取れる。
醪を見学してご満悦な来場者。いい笑顔だ。
醸造に使う機器はまとめて展示されていた。タンクや、濾過機、瓶詰め機など。
蔵の中心には試桶(ためおけ)に櫂。
Dev-aのジュリアンさんが来場者に日本酒の醸造について一つ一つ丁寧に説明していく。ジュリアンさんの着ているTシャツの胸元には「燗係者」の文字が。なんともC’est bonである。
蔵の外では立食パーティー
蔵の外には簡単な軽食が用意されており、このために給仕も2人雇われた。グレッグさんの力の入れようがみて取れる。
用意された料理は次々に入れ替わっていく。日本酒とチーズの相性はバッチリだそうでこの日も各種チーズが用意された。
食後にはデザートも。
会場では「花垣」「野花」も振る舞われた
この日は昇涙酒造で醸された酒だけでなく、南部酒造場の「花垣 生酛純米」と梅津酒造の日本酒を使って作られた梅酒「野花(のきょう)」も振る舞われた。
野花の説明を聞き入る地元民の真剣な眼差し。
御自ら来場者に酒を注がれる南部酒造所の南部社長。社長曰く「花垣 生酛純米」は燗にして飲むのがお勧めとのこと。
Dev-aの日本酒について開設されたパンフレットでは今回提供されたお酒がフランス語で説明されている。
在リヨン日本領事登場
蔵開きの後半には当日日本より赴任したばかりのリヨン領事(写真右)と副領事も駆けつけた。そのほか私は見かけることができなかったがペルーサン市長もお祝いに顔を出したとのこと。
まとめ
フランス初の酒蔵の蔵開きに参加するという稀有な経験をすることができて非常に楽しいひと時を過ごすことができた。海を渡った遠いフランスの地で我々が愛する日本酒が生まれ、現地の人に楽しまれていく。その様子は不思議でそして嬉しいものだった。
蔵開きは無事終わったものの昇涙酒造の活動はまだ始まったばかり。蔵の工事もまだ未完成であり、その行く先には数々の障害が待ち受けている。しかし、この蔵から作られたSAKEがフランスやヨーロッパの店先に並び、日本の酒店でも手に入るようになる日がそう遠くない未来に訪れることを考えると私の胸も踊るようである。
昇涙酒造についてもっと知る
- 公式ウェブサイト:Les larmes du levant
- インスタグラム:#leslarmesdulevant
- 公式フェイスブックページ:Les Larmes du Levant
- 昇涙酒造のお酒を買いたい:純米酒のがんこ酒屋(有限会社山枡酒店)
おまけ
南部酒造と梅津酒造のお酒はネットでも手に入ります。どちらもいただきましたが非常に飲みやすく美味しいお酒でした!
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